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浅倉 健一がだらだらと書き連ねるブログです
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今日は短編小説です。夢で見た風景を文章に起こしたものです。元が夢なので、自分でも意味不明ですが、夢の中の空気感を少しは再現出来たと思います。意味もなければ大したオチもない。それでも良いという方は続きの方でご覧下さい。

◇メッセージ返信・blazerさん◇
ご感想ありがとうございました。ロックマンっぽい作品に仕上がったという感想を頂いて、本当に嬉しいです。ロックマン離れが激しかった最近ですが、原作ファンがニヤリとして頂けたら幸いです。
アクセルのソードマン変身はー・・・まぁ、ありかなと(笑)コマミで見せたとんでも変身よりはずっとアリだと思います!
後編では最後の登場した謎の人物達が暴れ回ることになりますが、期待に添えますよう頑張りたいと思います。今後もどうぞよろしくお願いします。


――虹色電車――


 ――何でも願いを叶えてくれるランプの魔人が出てきたって、別に何かを願いたかったわけじゃない。

 沢山のお金もいらない。地位も名声も、そんなものが欲しかったわけじゃない。

 ただ平凡で穏やかな日々を過ごせればそれだけで満足だったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 

 世界の中で不幸な人はきっともっと沢山いる。

 僕の感じる失望も、絶望も、幻滅さえもおままごとに見えるくらい、苦しんでいる人はきっといる。

 死ぬわけじゃないだろう。

 ただ待っていても明日があるだろう。

 食事の心配もないだろう。

 そんな風に云われたら、きっと黙って頷くしかない。頷かなければ、暴力的で独善的な連中に無理矢理首を縦に振らされる。

 わかっている。

 そんなこと、わかっている。

 わかっているんだ。

 世界的に見れば僕の苦悩なんて取るに足らない。

 僕より苦しんでいる人はもっと沢山いる。

 僕なんかが苦しい、辛い、なんて云ったら、鼻で笑う連中はごまんといる。

 わかっている。

 そんなこと、わかっている。

 わかっているんだ。

 けれど、けれど、そんなのは自分の辛さの方が他人のそれより上回っていると得意になっている連中の言い分だ。

 少なくとも、僕には今の状況が辛い。

 自分の直面した現実が苦しくてたまらない。

 自分がそれよりも辛いからといって、他人の辛さを否定する権利が、一体誰にあるっていうんだ。

 辛い。苦しい。辛い。苦しい。

 辛くて苦しくて、悲しくて、堪らない。

 一体いつからこうしているのだろう。

 一体いつまでこうしているつもりなのだろう。

 わからない。

 そんなことを考える余裕もない。

 ただただ呆然として、思考がぐるぐるループする。

 そんな世界で一番不幸になった日。

 今まで生きてきた人生の中で一番辛い体験ばかりをした日。

 僕は奇妙な奇妙な電車を見た。

 

 

 雨が降っている。しとしとと微かに雨音が聞こえるくらいの小雨。ほんの少しだけ吹いてくる風に乗せられたそれが、ベンチに座った僕の膝を濡らす。冷たい。
 一体いつからここでこうしているのだろう。
 一体いつまでここでこうしているつもりなのだろう。
 そんな取り留めもない疑問を解消する為に電光掲示板を見る。でもそこは電気系統が故障でもしているのか、何の表示もなされていない。周りには他のお客さんも、駅員さんもいない。そもそも僕はこんな駅を見たことさえもなかった。
 一体、いつからここでこうしているのだろう。
 靄のかかったような記憶を手繰り寄せてみるけれど、残念ながら答えは見つからなかった。寧ろ思いだそうとすればするほど、答えは遠くなっていく。そんな気がする。
 ――別に、どうでもいい。
 考えることに、思い出すことに疲れはてた僕は、その場で大きくため息をついた。多分、無意識のうちに何度もため息をついてきたんだろう。意識の上では初めてのそれだけれど、身体の方は妙にその動作に慣れているようだった。
 ――別に、どうでもいい。
 どういった経緯で僕がここに座っているのかも。
 電車が来るか来ないかも。
 その電車が、一体どこへ行くのかも。
 ――別に、どうでもいい。
 どうでもいい。どうにでもなればいい。一体どれくらいの間ベンチに座っているのかもわからないけれど、僕はどうやら考えることに疲れてしまっていたらしい。

 ――最低な波が来た。
 きっともらえると思っていた就職内定を逃した。
 それが原因で親と口論になった。
 道ばたで出会った酔っぱらいに殴りつけられた。
 優しくしてくれていた近所のおばあちゃんが死んだ。
 長年連れ添った恋人にさよならを言われた。
 たった一人、誰からも置いてきぼりにされた気がした。

 一つ一つはそれでもなんとか乗り越えられる程度の出来事。そんなものがどんどんと、どんどんと積み重なって、いつの間にか疲れはててしまっていた。
 僕が悪かったのだろうか。
 僕が何をしたんだろうか。
 いや、何かできることがあったんだろうか。
 あのとき、ああしていればよかった。
 あのとき、あんなことをしなければよかった。

 そんなことばかりを思って、悩んで、苦しんで、一体いつから僕はこの駅のホームに座っているんだろう。

 思い出すのは二度目になる。
 でも、やっぱり思い出せない。
 いや、思い出す前に、僕の本心がこういう。
 ――別に、どうでもいいや。


 毎日あくせく働く父にこう言ったら。
 かつて戦争にかり出された祖父にこう言ったら。
 満員電車の中で疲れはてたサラリーマンにこう言ったら。
 世界のどこかで今日の食事も約束されず、飢餓に苛まれる人々にこう言ったら。
 僕の周りで、同じように生活している友人たちにこう言ったら。

 ――きっと、大したことない。大げさだ。俺はもっと辛い。お前はまだマシだ。そのくらいで悩むな。弱虫。意気地なし。

 そんな風に言われる。そんな風に言われると思いこむ、被害妄想。
 でもそれを馬鹿馬鹿しいと蹴り倒す勇気はない。さりとて自分の悩みを笑ってやり過ごせるだけの元気もない。
 誰も彼もがあざ笑っているように見えた。
 今まで存在していた小さな小さな自信が崩れ落ちて、胸を張ることが出来なくなってしまった。
 自分で自分を痛めつけていることは、最初から理解している。
 誰かに相談すれば笑顔で慰めてくれると、わかっている。
 でも、いつの間にかそんなことも出来ないくらい、僕は疲れ果ててしまった。
 なけなしの自信を砕かれた辛さも。
 大切な人を失った悲しさも。
 信じた者に裏切られた絶望も。
 きっと誰にも理解出来ない。

 自分で自分を殴り倒して。
 自分で自分に悪口を言って。
 助けを求めたくなっても、そのときにはもう誰も信じられなくなっていて。
 そうして心がささくれだらけになって、今はもう疲れたの一言しか浮かばない僕は、きっともう心が麻痺してしまっているんだろう。

 電車はいつになったら来るんだろう。
 もう何もかも疲れはてて、疲れたとしか思わなくなった僕は、ふとそんな風に思う。
 一体どれくらいの間、待ち続けているんだろう。
 本当に電車は来るのだろうか。
 その電車は、どこへ行くのだろうか。
 ――別に、どうでもいい。
 電車がやってくる瞬間のホームに飛び込んで、自分で自分の生に終止符を打ったら、この気持ちは楽になるんだろうか。
 そんな馬鹿な考えまで浮かんでくる。
 そんな馬鹿な考えに一人で笑って、力ない笑い声をたてる僕は、きっともうどこか壊れてしまっているんだろうか。

 ――別に、どうでもいい。

 馬鹿馬鹿しい。そう思って自嘲する。
 そうして顔を上げた。いつの間にそうなったのか、目の前の景色が変わっていた。
 電車が来ていたからだ。
 一体全体いつの間にやってきたのか。音もなく現れたそれは、なんだかとても奇抜なデザインだった。
 虹の色――なんて言えばおしゃれだろうか。言い方を変えれば絵の具をでたらめにぶちまけたような色だ。
 行き先も何も書いていない電車。
 いつまで経っても出発せず、開いた扉が閉まりもしない電車。
 まるで僕が乗るのを待っているみたいだ。

 ――別に、どうでもいい。

 そんなこと、あるはずがないとわかっている。
 そんなこと、ありえるはずがないとわかっている。
 僕なんかの為に電車かまるまる一本待っているなんて、そんな馬鹿馬鹿しいこと、起きるわけがない。

 けれど、どうしてだろうか。
 僕はいつの間にか立ち上がり、電車の中に乗り込んでいた。

 雨が冷たかったからだろう。
 吹き付ける湿った風が気持ち悪かったからだろう。
 もうどこへでも、行けばいいと思ったからだろう。


 そんな風に自分にいいわけをした。


 そんな風に自分に理由をつけた。


 そんな風に自分に言い聞かせて、僕は

 

 虹色の電車に乗った。

 

 

 

 

 

 

 電車には、誰も乗っていなかった。
 僕が片隅の椅子に座ると、扉はプシュッと音をたてて閉まり、程なくして電車は走り出した。

 座り心地の良い椅子だった。多分、固いベンチにずっと座っていたからそう思うんだろう。
 ゴトンゴトンと音を立てて揺れる柔らかい椅子に座っていると、なんだか雲の上にいるみたいだ。
 ゴトンゴトンと、電車が鳴る。

 窓の外を見る。
 多分、降っていた雨のせいだろう。窓は曇っていたし、その向こう側も不明瞭で何も見えない。
 ただ、ゴトンゴトンと電車が鳴る。

 辺りを見回す。
 あるはずの運行表はなかった。
 電光表示もない。
 どこへ向かっているのか、わからない。
 ただ、ゴトンゴトンと電車が鳴る。

 暫くすると、長い間電車に乗っていることに気づく。
 各駅停車なら、もう何駅も止まっているはずなのに、そんな気配は全くない。
 快速電車なのだろうか。それにしたって、止まる気配がない。
 新幹線だなんて冗談はないだろう。それにしたって、止まる気配はない。
 ただ、ゴトンゴトンと電車が鳴る。

 

 ――別に、どうでもいい。

 

 

 浮かんでくるはずの疑問はまだまだあるはずだった。
 そろそろ色々なことに不安を覚えてもいい頃だった。
 でも、そんなことを思うことにも疲れてしまった。

 どこへだって行けばいい。
 


 ただ、ゴトンゴトンと電車が鳴る。

 

 

 

 

 暫くして、電車が止まった。
 開いた扉から、誰かが乗り込んでくる。
 その人はゆったりと歩くと、僕の向かい側の席に座った。
 そしてまた電車が走り始める。
 向かいの人は、なんだか不思議な格好をしていた。
 長いコートを着ていた。黒色で、膝下くらいまである長いコート。
 顔は、わからない。黒いキャスケット帽を目深にかぶっているからだ。
 年齢も、性別もわからない。とても若く見えるけれど、年寄りにも見える。男にも女にも見える。

 ――別に、どうでもいい。

 興味はすぐに失せた。
 僕はまた俯く。向かいの人も、一言も喋らない、ピクリともしない。

 ただ、ゴトンゴトンと電車が揺れた。

 

 

 

「この電車は、どこへ行くんですか」

 

 

 

 

 訪ねたのは、僕の方だった。

 

 自分で自分に驚く。どうして、こんなことを訪ねてしまったんだろう。

 


 どれくらいの間、電車に乗っているのだろう。


 ベンチに座っていた時間が、とても遠い過去のように感じる。

 それなのに、濡れたズボンはまだ乾いていない。

 

 きっと、ほとんど時間なんか経っていなかったんだろう。

 

 ――別に、どうでもいい。

 


「おかしな色をした電車ですね。それにさっき一回止まっただけで、それからずっと走ってる」

 


 向かいの席の人は何も答えない。

 

 ただ、拒絶の念もない。

 


 僕が話すのを待っているみたいだ。

 

 

「別に、行き先なんかどうでもいい」

 

 

 向かいの席の人は、何も言わなかった。。

 


「どこへだって行けばいい」

 


 向かいの席の人は、何も言わなかった。

 

 

「僕は疲れたんだ」

 

 向かいの席の人は、何も言わなかった。

 


「こんなことを言ったら、きっといろんな人に叱られるだろうけど」

 

 向かいの席の人は、何も言わなかった。

 


「嫌なことがたくさんあったんだ」

 

 向かいの席の人は、何も言わなかった。

 

「辛いことがたくさんあったんだ」


 向かいの席の人は、何も言わなかった。

 

「怠けてたわけじゃない。僕は、出来るだけがんばった」
 ――つもりなんだ。

 

 就職活動も、面接も、勉強も。


 ――それなのに。

 

「あんなことを言いたかったわけじゃない。喧嘩をしたかったわけじゃない」
 ――喧嘩をしたかった、わけじゃ、ない。

 


 親との口論だって、八つ当たりだってことは、わかっている。

 

 

「ありがとうも、さようならも、言えなかった」
 ――本当はいつも感謝していたのに。

 

 近所のおばあちゃんとの突然の別れも。

 

 甘える相手を失った自分が可哀想になっただけなんじゃ、ないのか。

 

「いつだって大切にしてた。一番大切だった。それなのに

 ――それなのに、どうして応えてくれなかった。

 

 一度は将来を誓った恋人だったのに。

 


 


 誰からも、置いてきぼりにされた気がした。


 誰からも、認めてもらえない気がした。


 誰からも、責められている気がした。

 

「僕が、何をしたっていうんだ」

 

 向かいの席の人は、何も言わない。

 

「どこが、悪かったっていうんだ」


 向かいの席の人は、何も言わない。

 

「どうして、こんな目にばかりあうんだ」

 

 向かいの席の人は、何も言わない。

 

「僕が悪かったのか」


 向かいの席の人は、何も言わない。

 

「僕がいけなかったのか」


 向かいの席の人は、何も言わない。

 

「わかってる」

 

 向かいの席の人は、何も言わない。

 

「僕よりも辛い人はたくさんいるんだ。僕より苦しいけど、それでもがんばってる人がいることは、わかってるんだ」


 向かいの席の人は、何も言わない。


「そんな人たちから見たら、僕なんかてんで大したことない。そんな人たちに見られたら、甘えるな、逃げるな、弱虫、意気地なし、お前が弱いからだ。僕が弱いからだって、そういわれるに決まってる」

 向かいの席の人は、何も言わない。


「でも、僕は辛いんだ。僕の生きた人生の中で、一番辛い体験だったんだ」

 


 向かいの席の人は、やっぱり何も言わない。


「でも、誰もわかってくれない」


 本当に、わかってくれない?

 

「誰からも、置いてきぼりにされた」


 本当に、置いてきぼりにされた?

 

「誰からも、責められている気がするんだ」


 本当に、責められている?


「自分が、くだらない人間に見えて仕方がないんだ」


 ひとかけらの自信も、大切な人も……。

 

「もっと大変な人はいるってわかって」


 そんなことを――

 

「そんなことを、考える必要がある?」


「あっ……」

 

 いつの間にか、向かいの席の人が目の前にいた。


 その掌が、僕の頬に触れる。


 いつから、泣いていたんだろう。

 

 


 涙なんて、もう枯れ果てたつもりでいたのに。


「君の辛さは、君の苦しみは、全て君のものだ」


 帽子の下から覗いた唇かそう囁く。


 男か女かもわからない声。


 でも、いつかどこかで聞いた声。

 

 

「どうして、それを認めて上げない」

 

 

 

「僕は……」

 

 

 

「他にもっと大変な人がいる。自分の苦しみなんて、大したことはない。どうして、先回りをするんだ?」

 


「先回り……?」

 


 唇がきゅっと引き結ばれた。

 


 怒っているんだろうか。

 

 悲しんでいるんだろうか。

 

 

 僕には、辛さをぐっと堪えているように思えた。

 

 


「自分はわかってるって。理解してるって。虚勢を張りながら、でも自分の辛さに勝てなくて、誰からもひた隠しにして、自分一人で苦しんで。それなのに、自分で自分の苦しみを、悲しみを、辛さを理解して上げない」

 

 

「違っ、僕は……」

 


「違わない」

 

 

「僕……は」

 

 

「結局、自分の弱さを、情けなさを、自分自身で認めて上げられないだけじゃないのか」

 

 

「……っ」

 


 下らない人間なんじゃないかと思えて仕方ない――

 


 この辛さは、きっと誰にも理解出来ない――

 


 心がトゲだらけになって、麻痺してしまった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――本当に、そう?

 

 

 

 

 

「君に、何がわかるって云うんだ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 心の奥で、何かが弾け飛んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 


「なら、君は何をわかってほしいんだ」

 

 

 

 

 

 

「立て続けに嫌なことが起きた。信じたものに裏切られた。ひとかけらの自信を打ち砕かれた。自分で自分を信じられなくなった。
 でも、僕がどんなに嘆いても、どんなに苦しんでも、もっと辛い人は必ずいるし、そんな人には鼻で笑われるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「――君は、誰に笑われたの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……」

 

 

 

 

 

 

 

 


 気付いたら、僕は向かいの席の人に掴みかかっていた。

 

 

 

 

 


 胸ぐらを掴み、押し倒し、その顔に拳を当てる。

 

 

 

 

 その人は、抵抗しなかった。

 

 

 

 

 

 

 ただ、目深に被っていた帽子が取れ、素顔が露わになる。

 

 

 

 

 

 

 その顔を見て、僕は絶句した。

 

 

 

 

 


「誰も、本当は君を笑ってなんかないよ。それは君の心が勝手に作り出した幻想で、君はただ自分で自分を責めて、可哀想な人に仕立て上げてるだけだ」

 

 

 

 

 

「君……は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰にも理解出来ないなんて。壊れてしまったなんて。疲れてしまったなんて。どうでもいいなんて。本当は、全部嘘」

 

 

 

 

 

 

 


「あ……ああ……」

 

 

 


「本当は、追いかけてきて欲しかったんでしょう」

 

 

 

 

 

 

 


 その顔が、笑う。

 

 

 

 泣き腫らしたみたいに赤くなった頬で。

 

 


 真っ赤になってしまった目で。

 

 

 

 

 ずっと引き結んでいた唇で、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「拒絶しても追いかけてきて、自分を助け出してくれる人が来るのを、待っていたんでしょう。君が必要だ。情けない君でも構わない。そう云ってくれる人を、探していたんでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 それは、それは……。

 

 

 

 

 

 

 


「いいんだよ、情けなくても」

 

 

 

 

 

 

 

 


 情けなくても、いい――?

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいんだよ、間違えても」

 

 

 

 

 

 間違えても、いい――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、捨てないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「えっ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「情けない君も、馬鹿みたいな君も、間違えた君も、全部、君自身。強いところも、弱いところも、全て、君のもの。もし仮に君の強いところだけしか見ない人がいるなら、それは、ただその人がその程度の人間だったってだけのこと。
 だから、捨てないで。受け入れて。全ての人の辛さは、苦しさは、その人個人のもの。誰もそれを否定できないし、誰もそれを自分の外に追い出すことはできない。
 だから、捨てないで。情けなくて、みっともなくて、いつも間違えて、泣いてばかりいる、僕を――」

 

 

 

 

 

 

 


 その人は、笑った。

 

 

 

 

 

 


 そしてその人は、泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 笑っていたのは、僕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 泣いていたのは、僕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「君は、こんな僕を責める……? 笑う……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「責めないよ。笑わないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――辛くて押しつぶされそうでも、それを覚えていれば、次はきっと足を踏ん張れるよね。

 

 

 

 

 

 

 ――苦しくて挫けそうでも、それを知れば、ほんのひとかけらでも、優しくなれるよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――寂しくて泣いている人と、一緒に泣いて上げられるよね。

 

 

 

 

 

 


「だから一緒に――」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ――僕――君――と、一緒に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 電車は、いつの間にか止まっていた。

 

 

 開いた扉から外に出る。

 

 

 雨は、いつの間にか止んでいた。

 

 

 まだ、肌寒い。

 

 まだ、厚い雲があちこちにある。

 


 駅を抜けてもそこにあるのは、どうしようもない世界。

 


 辛くて、苦しくて、馬鹿みたいで、くそったれな世界。

 


 失ったものはもう二度と戻ってこない、理不尽な世界。

 


 だけど、日が差している。

 


 そこに、虹が架かっている。

 


 僕は、コートを脱いだ。

 

 ほこりだらけになった帽子を脱いだ。

 

 

 振り向くと、電車が走り去っていくところだった。

 

 

 今の世界みたいに、不格好で、子供の悪戯書きみたいな虹の色をした電車が。

 

 

 僕を、ここまで連れてきてくれた電車が。

 

 

 

 

 


「僕は、帰ってもいいのかな」

 

 

 

 

 

 

 

 ――君が、帰りたいと思うのならね。

 

 

 

 

 

 

「うん……」

 

 

 

 

 

 それっきり、虹色電車も、向かいの席に座っていた”僕”の声も、なくなった。

 

 

 

 

 

 

「帰ろう。虹が架かった先へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――もう一度、あの苦しくも懐かしい世界へ。

 

 

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